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審美歯科について
私が学生の頃は、“審美歯科” などという言葉自体、聞いたことがありませんでした。確かに、一部の欧文教科書には、“esthetic(審美性)”といった言葉が繰り返し出てくることがありました。こういったことから、欧米ではかなり以前から審美性にフォーカスを当てた分野が存在していたことが解ります。日本では、一般の方の間でいつ頃からこの言葉がポピュラーになったのでしょうか?思い起こすと、心当たりがありました。それは、某有名女性歌手が、ある先生と結婚された際に、“審美歯科”という言葉が幾回もTVで繰り返し流されたことが、発端となったように思います。これは余談として、審美的要求度が高まってきた結果、審美的側面に重きを置いた分野が曖昧ながらも出来てしまったのでしょう。
“歯科界のトレンド”でも書きましたが、審美的側面を強調した歯科治療にはいささか危なげなものを感じてなりません。よって私は、敢えて“審美歯科”という用語を職業上も使用していません。
患者さんを診察して、歯周病や齲蝕(虫歯)が有ればこれを完全に治療します。歯根内部(歯髄)に問題が有ればこれを完全に治療(歯内療法)し、歯冠部が崩壊していれば、精度の高い形成(歯を削る)をし、印象(型どり)をして、同じく精度の高い冠を装着します。補綴物に自然観のあるモノをお作りすることは当然です。こういった極基本的治療を完全に施した結果得られる健康な口腔内環境が、審美的側面であるレベルを満たすモノと考えております。よって、敢えて“審美歯科”といった用語は使いません。
むしろ、問題なのが「色が白くて綺麗だ」といった審美的側面ばかり強調されて、前述の健康な口腔内を得るために必須な基本的治療を蔑ろにする傾向が出てしまうことです。見識が高い先生は、そんなことはありませんが、基礎的治療が不完全なまま“審美歯科”という名で無駄な治療が行われている現実が歯科界に散見されることは誠に残念でなりません。