「アマルガム充填法」:古典的歯科材料と捨て去らないで、悪い材料なんて言わないで
私はブログでが、以前から数回歯科修復法としてコンポジットレジン修復法について書いています毎日のようにインレーの外れた患者さんや充填物の二次カリエス(二次う蝕)を理由に来院される患者さんがいらっしゃいます。

ココにご覧頂くのは、一昨日お越しになった患者さんのアマルガム充填をした症例です。
インレーが外れた歯の窩底部(窩洞の底の部分)にはう蝕に侵されたと思われる変色した軟化象牙質が認められます。充填されていたインレーの精度不良・不適切な窩洞形成と感染歯質の取り残しによるう蝕の両面で不適切な治療だった可能性があります。

これ↑は、軟化象牙質を完全に除去した後、ラバーダム防湿法下・アマルガム(amalgam)で充填を終えた未研磨の状態です。

昨日充填されたアマルガム充填部に本日研磨を施すために来院され、研磨を終えた状態です(これで治療完了です)。
*画像は研磨面が乱反射していますが滑沢に研磨されています。
今回のアマルガム充填のようにそういった利点のある充填材料だとご理解頂けると思います。
印象をしてラボで作製されるインレーと比べ、窩洞形成・印象採得・などの各段階のエラーが生じないために適切な術式を熟知した臨床家なら、辺縁適合性や封鎖性が良い充填処置が技工所を使用しないで完了します。
ミキシング直後数分程度はペースト状の可塑性(形態を付与できる)のある状態を維持しますが、時間と供に鋳造金属のように硬く硬化します。完全に硬化する前に必要な歯の解剖学的な形態を彫刻します。そして、約24時間以上経過してから充填物の表面を滑沢に研磨します。
この頃は、コンポジットレジン(CR)の物理的性質が飛躍的に改善され咬合面にも応用できる物理的特性を得た製品が開発されたことから、従来までのようにアマルガムを使用する頻度は少なくなりました。
しかし、 噛み合う歯に金属製充填物や金属冠が装着されている時にはコンポジットレジンでは予想外の摩耗や時には破折を生じるのでアマルガムを充填することがあります。
もちろん精度の高い金合金のインレーなら尚更良いのですが、高い精度を持ったハイカラットの金合金製インレーは技工料と金属代などコストも非常に高くなり治療費も高価になります。よって、今回同様にコストパフォーマンスが高いアマルガムを材料として私はアマルガム充填を選択することがあります。
以前私が購読していた米国継続教育・歯科雑誌"Compendium"の'90年ぐらいのあるvolumeには次のような論文が掲載されていました。
その論文は、頻繁に使用される数種類の歯科材料(CR・金インレーなど)の中で口腔内で維持される平均年数・治療し直し(再充填)回数・治療費などを疫学的に調査して判定した結果、歯科充填材料のコストパフォーマンス(CP)を比較したところ、と結論づけられていました。
CPといったキーワードが出てくるところがアメリカらしいと思います。米国は日本のような皆保険制度がないために基本的には全て自費診療です。よって、「治療費が安くて長く口の中で使える修復方法が良いだろう」と考えるのです。日本でも米国と同様にCPを考慮することは現実的で大変に良いことだと私は考えます。日本でも、精度不良のインレーを装着して二次う蝕を作るよりも、アマルガム修復を適切に行うことの方がよほど臨床的には実質的意義があると思います。
【 アマルガムとは何か?】
アマルガムの使用材料に水銀が含まれることから、体に害があるような印象を強く与えることがありますが、"アマルガム"充填法は正式に安全性を認められた歯科材料(金属合金)であり修復方法です。アマルガム充填の合金は日本の厚生労働省のみならず、世界の国々で正式に国に認可され、世界で最も診査基準が厳格なアメリカ歯科医師会の審査基準ADAにもパスしている最も使用頻度が高い歴史ある歯科材料の一つです。
かなり以前私が学生時代、大学の授業でもアマルガムが米国では使われなくなったような話題が語られたことがありましたが、実際は米国の補綴医や保存専門医などの間では、効果的にアマルガムが臨床に使用されています。私が使用している米国や欧州の著名な補綴学や保存学の教科書にもアマルガムの効果的な臨床における使用方法が載っています。それだけに、信頼できる材料だと考えられます。
○アマルガムの歯頸部根面う蝕への応用:
私も、今回の症例のように対合歯が金属の場合の充填処置と、臼歯部で清掃不良により歯頸部(歯茎近く)に生じた大きな根面う蝕の修復方法として特にカリエスリスクが高い患者さんには使用することがあります。
特に、口腔清掃が不十分になり易い環境要因での高齢者のう蝕治療に的確に使用することで二次う蝕の予防に効果的だと考えます。

う蝕傾向が非常に強い70代男性の下顎小臼歯・歯頸部にアマルガム充填を施した一症例 う蝕リスクの高い患者さんへのう蝕治療の妥当な一方法論と考えています。
アマルガムの利点として、コンポジットレジンと比較して歯垢(プラーク)の付着をある程度抑制する効果や二次う蝕を抑制する効果もあることが知られています。
コンポジットレジンは、う蝕に関して充填・修復方法としては大変に良い材料ですが、歯垢を付着させ易い傾向があります。これは材料の表面電位がマイナスであるために、う蝕を起こす細菌である連鎖球菌などの細胞壁のプラスに荷電した表面電位と結びつきやすいことに由ります。
ところで、アマルガムにはそういった細菌を寄せ付ける都合の悪い効果は余りありません。アマルガムを臼歯部の歯頸部に使用する目的は歯垢の付着を抑制したいからです。
また、例え充填物辺縁に間隙が生じても二次う蝕を生じるリスクは他の材質に比較して少ないことも知られています。これは、アマルガムに存在する銀イオンなど金属イオンが常に微量に放出されることで、制菌作用として働くオリゴダイナミック・セオリー(オリゴジナミー*)に由ると考えられます。
*微量な銀イオンなど金属イオンの一部は、細菌の増殖を抑制する作用があります。また、歯内療法の外科処置である"歯根端切除術"では、歯根端部での根管の閉鎖材料にも使われてきた歴史もあります。
また、支台歯のマージン付近に小さなう蝕が存在する場合もアマルガムを充填してから形成することがあります。アマルガムは充填された状態で支台形成することもできる適応に柔軟性がある歯科材料です。マージン部がシャープに形成できるため、精度の良い適合の良い支台歯形が可能となります。精度の高い補綴治療には大変に便利な歯科材料です。コンポジットレジンと同様に歯牙に充填されたまま支台形成できるという利点は、他の金属充填物やセラミックス(陶材系修復材料)にはない特徴です。
なぜか昔の悪い材料といった誤解を、歯科界でも持っている方が多いようです。しかし、むしろ米国などの専門医が効果的に使っていることを知れば、もっと適切に歯科臨床に使用すべきことが理解できると私は考えています。
○アマルガム充填法を教えなくなったある国立大学
余談です、東京湯島の国立大学(Tokyo M&D Univ.)では、保存学実習でアマルガム充填を行って、その切削片など廃液をそのまま下水に流してしまったことから、監督官庁から厳重に注意されたことは歯科界では大変に有名です。それ以来、その大学ではアマルガム充填法を教えなくなったとのことです。
偶然ですが、私はその時の下水の調査を請け負った業者の技術士の方と偶然ある場所でお会いしたことがありました。大学側は1度厳重注意を受けていながら、それを無視してその後にも平気で水銀含有のアマルガムやそのカスを下水に多量に流してしまったようです。監督官庁も意地が悪く、意図的に実習の日を狙って二度目に調べたわけです。この時にも下水に再び異常な水銀濃度が検出されることとなりました。
こうして、湯島のこの大学では実習の項目からアマルガム充填がなくなり、「あそこの卒業生はアマルガム充填もできない。代診として雇ったが無能だからクビにした。」、「あの大学の若いのはアマルガム充填すらできないから雇わない」などとと、歯科界のベテラン院長などから一部では陰口をたたかれたり、そういった噂が広まった時期もありました(これはあくまでも噂ですから....)。
*ココで誤解がないように付け加えますが、
私も子供の頃に充填されたアマルガム充填が口腔内に残っています。もちろんこれにより健康を害したことなど全く有りません。世界中で頻繁に使用されていますが、ある種の健康被害とアマルガム成分との因果関係が明確に証明された報告はありません。
そういった明確な根拠のないことを心配をするよりも、むしろ不適切な充填治療で歯牙をダメにしてしまうリスクを真剣に心配すべきです。
歯科界では古典的歯科材料と思われて久しいマルガム(充填)ですが、その臨床的利点を再評価すべきと考えます。もっと適切に使用して臨床応用をすべきだと、巷のう蝕治療の現状を観るにつけ私はそう考えている今日この頃です。
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