根尖病巣が治らない:治療の概念が解らない歯科医が多い
同じような症例が何故か短期間に集中することはさほど珍しいことではありません。
つい最近、根尖病巣が治らないという主訴で来院された患者さんが数名続きました。
ここにその内の2症例を挙げます。
これ等はいずれも極めて基本的な治療概念を知らない担当医が真っ当な治療を行わなかったから治らなかっただけの典型的な症例です。
<症例Ⅰ:
この症例は、上顎右側中切歯の根尖病巣が治らないので、歯根端切除術をして欲しい。更に下顎左側臼歯部にブリッジを装着して欲しい。等々と希望されて来院された患者さんです。
また、12月に国外転勤の辞令が出る予定なので、それまでに治療して欲しいとの要望の下で治療に着手しました。
この方は成人歯科矯正を受けています。上下前歯部には保定装置のワイヤーが設置されています。
歯内療法の都合上、上顎のワイヤを撤去しラバーダム防湿法下で中切歯の舌側から根管内へアクセスしたところ、根管中にはメインポイントらしき根管充填材が1本挿入されているだけで大きな間隙が空いている様な根管内の状態でした。しかも根管壁には清掃不良による感染歯質が沢山残っていました。すなわち真っ当な根管治療もしていないメインポイントを1本挿入しただけのデタラメの根管治療でした。
これでは清掃不良の根管から根尖孔を通って、デブリスや細菌(抗原)が根尖外に自由に放出されるので根尖病巣は治る訳はありませんし、むしろ大きくなることさえ有り得ます。
そこで、私は根管壁の充分なファイリング操作による機械的清掃とEDTA等による化学的清掃を行い根管には水酸化ナトリウムペーストを根管治療薬として封入しました。
水酸化ナトリウムは世界標準の根管治療薬です。これをもう一度交換して年末近くまでそのままにしておけば後は根管充填するだけで基本的には根尖病巣は治るはずです。
もちろん、基本的には外科的なアプローチなど今の時点では全く必要は無いはずです。
あくまでも通常の根管治療を終えても根尖病巣が治らない際に外科的なアプローチを考えます。まともな根管充填もされていない時点で外科的な処置を採る計画はしません。
また計画では根充後にはコロナルリーケージを封鎖すためにも直ぐに精度の高い歯冠補綴(セラモメタルクラウン)を装着するところまで行う予定です。
前医は「根尖病巣が大きいと根管治療だけでは治らない」といった勘違いをしていて外科的な歯根端切除術をやりたがったのでしょう。こういった勘違いをする歯科医が多いのが勉強もしていない歯科医の実情です。
そもそもこれを行った先生は根管治療もまともに出来ない歯科医です。
このケースのように単根の前歯の簡単な根管治療も出来ない無能な歯科医ほど外科的に処置したがる傾向が強いので驚きます。
根管には根管充填材のメインポイントが1本挿入されていました。
根管壁にはデブリスが付着し明らかに根管清掃が完了せずスカスカな状態で根尖外へは自由に抗原性があるモノが漏洩する状態です。
症例Ⅱ:
この症例はある歯科医院で上顎側切歯に歯根端切除術を受けたが根尖病巣が治らないといった問題でカウンセリング希望で二番町から来院された方です。
確かに上顎前歯部にオペによって出来たであろう切開の瘢痕が歯肉に残っていました。
よって患者さんが仰るようにオペは行われたはずです。
しかしレントゲン上からは何かおかしいと感じました。
レントゲン像からは限りが有る情報ですが、適切な歯根端切除術は行われていないように思われます。
このケースでは実際には歯根端部には触れない(もしくは少し削った程度)で根尖病巣の嚢胞など搔爬しただけにように思います。
もちろん逆根管充填もされていないようです。
もしそうなら、根尖病巣は治りません。
せっかく外科的に歯肉を切開をして歯肉を剥離し翻転したのなら、治療効果のある基本的手技を行わなければければ単なる傷害を与えたことにしかなりません。(=治療とは言えません)
歯根端の側枝の状態
根尖付近3ミリは細菌侵入の可能性がある根尖周辺の側枝の95%が存在し得る部位なので、しっかりカットする事が必要です。また通常はカット面に露出した根管断面へは適切な封鎖性の良い充填材によって逆根管充填すべきです。
根尖の切除と供に逆根管充填によって根管から抗原性がある物質が漏洩する事をブロックする事で根尖病巣を治癒に導きます。
これが基本的な外科的歯内療法のアプローチの基本概念と治療の概略(下の模式図参照のこと)です。
歯根端切除術・模式図
歯肉を剥離翻転して根尖病巣部位の骨壁を唇側から除去し根尖部が明確に見える状態で根尖部約3ミリを除去し残った根尖の断面に露出した根管へ充填材で逆根管充填(斜線部)をします。
また、良く歯根端切除術がマイクロスコープを使わなければ出来ないと信じて問い合わせしてくる方がいますが、顕微鏡歯科に習熟して使いこなせるスキルがある歯科医が行ってより臨床成績が良い治療を可能に出来ますが、基本的には顕微鏡を使用しないでも数倍のルーペ付きグラス等で充分治療は可能です。
ちなみに、私のオフィスにはマイクロスコープが設置されています。
まとめ:
上の二つの症例は担当医が治療概念を理解していなかったと思われます。
各々真っ当な治療を行えば治るはずです。
患者さんは治療(オペなども)をした事実があれば治療が出来ているものと考えがちですが、全く治療として成立していない一種の傷害を与えられただけの今回と同様のケースが世の中には沢山存在しています。
患者さんが素人なので何も問題を感じないだけの話です。
歯科界では学生時代に本当に大切な基本を充分に教わらないで学生も基礎的歯科の学問を身につけないで卒業しているのが現状です。
充分に歯科の学問を学生に教えていないうちに何故か国家試験対策を始める大学が私立歯科大を中心として今では情けない常識になっています。
これは歯科大の経営上の問題で国家試験の合格率が低いと生徒が集まらずに経営危機になるので歯科大では優秀な人材を育てる使命を置き去りにしてまで合格率を良くする方策ばかり考えるようになったのです。
こうして何も歯科の学問を知らない馬鹿な卒業生が歯科医師免許を得、その多くは惰性で歯科医として働き臨床を行い続けます。
更に、卒後真剣に歯科の学問を基礎から学ぶというよりも、即自費治療のネタになる治療を行うためのハウツーを得る為に講習会で治療の仕方だけ身に付けることばかりに熱心になってしまうようです(その典型が業者主催のインプラント講習会への受講です)。
ほぼ一度も歯科の基礎的学問を深いレベルで勉強する機会が無かった先生ばかりが増殖しているのが恐ろしい歯科界の実態です。
このような実態を知ってもアナタは怪しい歯科医師に安心して口腔内の健康を委ねることが出来ますか?
リテラシーを持って、歯科医に騙されないで自分の身は自分で守って下さい。
*私のブログやオフィスのwebは基本的にコンテンツの文章や作図(イラストや模式図)に至るまで院長の私が全て作成しています。
よって、当オフィスのポリシーが全て反映されています。
お読み頂ければ幸いです。