インプラントでは噛み応えが得られません:患者さんのインプラントへの疑問に答える
先日,カウンセリングで患者さんが来院しました。「前医に執拗にインプラントを勧められたがインプラントとはどのようなモノで安全か?」といった旨の疑問を持った患者さんでした。
そんな患者さんの疑問から、多くの皆さんが知らないことで私のブログでもまだ書いていない事がありましたので、それをこのブログでは書かせて頂きます。
人工歯根の話をする前に我々の持つ天然の歯について説明する事でインプラントのような人工歯根の特性が理解出来ると思います。
我々の歯は歯槽骨に直接植わっているわけではなく歯槽骨に歯根膜線維と呼ばれるコラーゲンで出来た線維によって歯槽骨に機能的に固定されています。
噛む際に歯に加わる咀嚼圧に対して緩衝する層として歯根膜線維のこの層は歯根膜という空間を解剖学的に構成し機能的に咬合圧を緩衝させ,尚且つ歯根膜に存在する咀嚼圧を感じる圧受容器(センサー)によって咀嚼圧を感知しこれが神経線維によりその信号が中枢へ送られて噛み応えを感じています。この歯根膜空にある受容器と神経伝達機構のおかげで咀嚼が円滑に行えて噛み応えを楽しむ事も出来ます(下図参照のこと)。
また、インプラントは噛み応えを感じないことだけでは無く他にも都合の悪いことがあります。
咬合圧を感知しないために、もし硬いものを偶発的に噛んでしまった時には、硬いモノを噛んだ感覚がわからないので、上部構造を壊してしまったり、顎関節に傷害を与えたり危険なケースも生じます。我々の歯では硬いモノを噛んだ際には、その異常な圧を受容器で感じて、反射的に歯を開けるような反射的機構が中枢と咀嚼の間には備わっているために歯や顎関節に傷害を与えないように出来ます。
図に示したように咀嚼圧は歯根膜に存在する圧受容器によって感知されて噛み応えとして我々は認識しています。
圧受容器は歯髄では無く歯根膜空に存在するため、例えば歯髄神経が抜かれた(抜髄された)無髄歯でも噛み応えを感じます。ですから天然の歯は抜歯しないで済むように大切に保存すべきです。
人工歯根であるインプラント体では、その周囲はガッチリとオッセオインテグレーションといわれるインプラントの複雑な表面構造への歯槽骨組織の嵌合によって固定されていますが、天然の歯のような緩衝層も歯根膜線維もその周囲には存在していません。もちろんそこには圧受容器も存在していませんから咀嚼圧も感じません。すなわち人工歯根(インプラント)には噛み応えを感じる機能がありません。
先日の患者さんにもインプラント自体には噛み応えを感じる機能が無い事をシッカリ説明しました。
また、インプラント体では圧を感じないことで硬いもモノを誤って噛んだ際の開口反射も起きません。
実はこの点も大きなインプラントの欠点です。
誤って硬いモノを噛んだり、箸を噛んでしまった際には天然の歯なら瞬時に噛むのを止めて口が開くようなメカニズムが我々には備わっています(開口反射)。
しかしインプラントにはこれが無いために,時には上部構造のセラミックス製の歯が破折してしまうことも有り得ます。このような機械的な傷害を受けやすい欠点を認識すべきです。
天然歯の歯周組織に備わる安全装置は我々が人工的に作るインプラントでは得られない素晴らしいシステムだと知って下さい。
このような根拠から歯を歯周病治療で保存出来るにもかかわらず、抜歯してまでインプラントを埋入する論理的正当性は無いものとして歯を大切にして頂きたいと患者さんには切に御願いしています。
歯科医が高額自費治療費を安易に得ようとする傾向が強い昨今,正しいインプラントの特性も天然の歯との違いも臨床家は適切に説明していないようです。さらに、インプラント周囲を適切に清掃していないとインプラント周囲炎が生じることや,インプラント周囲炎を治療する方法論が未だ学問的に確立していない欠点も説明すらしないで歯科医は平然と治療し続けています。
レベルの低いこのような多くの臨床家に騙されて治療を受けた挙げ句に多くの患者さんが困り果てて行き場もなく歯科界にさ迷っている潜在的状況を知って安易にインプラント治療を受けないようにして下さい。
一般に 欠損歯部にはインプラント以外に従来型の可撤性義歯(入れ歯)やブリッジも選択できます。よってインプラント以外の選択肢が無いように歯科医から説明された場合には歯科医が高額な自費治療費が欲しいためにそのように言い張っていると考えることもできます。
皆さんはインプラント治療のダークサイドを充分に知って下さい。まずは歯科界の状況と歯科的常識を持って危ない歯科治療に近づかないようにサバイバルして下さい。