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2010年5月 1日


ある日、医科系出版社の編集者R女史より、「ある方が歯が痛んで困っている」「担当医も原因が解らないらしいので、診てくれないか」との連絡がありました。日本でも著名な数十名の臨床医を知っているRさんから、そういった先生方にではなく、私のような者へファースト・コールを頂いたので、有り難く拝見させていただきました。



お出で頂いた患者さんは、佐藤英子(仮名)さんという会社を経営されている品の良いご婦人でした。全顎的にある先生に治療を受けているようで、お口の中には前歯のパーシャルベニアを含めてしっかりとした精度の良い補綴がなされていました。お痛みがあるという歯は、左側第二大臼歯で、小臼歯からブリッジが装着されていました。打診をすると違和感があるようで、間違えなくこの歯が患歯(問題の歯)であることが解りました。来院時、激痛は緩和されていました(失活していた=歯髄が死んでいる)。




panorama
















このような状態です。


前日、激痛にうなされて担当医を訪れたそうですが、院長は遠方の学会に出席しているので代診の先生が代わりに診察したそうですが、原因がわからず対症療法としてお薬を処方されただけだったそうです。



デンタル1
















デンタル(X線)写真です。

第二大臼歯近心に、8ミリ近い深いポケットが存在していました(出血なし)。




この時点で、歯根破折を疑いました。また、反対側(右側)の第二大臼歯は以前破折して失っているそうです。実はこの既往が大切なのです。以前歯牙破折しているということは、今回も破折が関係している可能性は濃厚だからです(=口腔診断学の基本)。




破折が生じるとその破折線に沿って根尖方向へ細菌が移動して、骨が根尖方向へくさび状に深く破壊されるからです。これはいわば常識で、根部に破折が生じた印です。破折歯の多くは、よっぽどのことがない限り破折部が割れた状態で見えてきません。ですから、気がつかずに放置しやすいのでしょう。ただ、こういった骨欠損があるとき、歯周病も破折も考えずに補綴をする先生は、はっきりと不見識と言えます。先生自身がプローブで診査するようなことを行っていない医院ではこうしたことが起こりがちです。この医院も例外ではないのでしょう。
 

デンタル2















近心には、上の写真のアウトラインに示すような欠損があります。また、既に根尖(根の先)には根尖病巣を思わせる不明瞭な影が確認できます。一方、口腔内所見では当該部位のポーセレン製の咬合面が、著しく咬耗していました。ブラキシズムと呼ばれるような"くいしばり"などの悪習癖があるものと想像されます。こういった方は、歯牙破折しやすいのは歯科常識です。


*下顎は、第二大臼歯にポーセレン製のインレーと、第一大臼歯には咬合面がポーセレンのセラモメタルクラウンが装着されています。佐藤さんのようなケースでは、メタルでカバーすべきでしょう。
 

ポーセレンでは著しい咬耗とポーセレンが破折をする可能性が高いからです。

審美性を損なわせないためかも知れませんが、設計ミスだとも思います(安全な方法はブラキシズムの患者には、咬合面はメタルカバーです )。

もちろん、上下顎咬合する箇所はメタルが安全です。ポーセレン修復ではなく、メタル修復もしくは一部メタルにすべきでしょう。患者さんの希望もありますが、安全な処置方法をとることや説明してそれをススめることは臨床家として大切なことだと考えます。


このように"審美歯科"などという言葉を掲げて、安全な選択肢を忘れることは臨床上根本的問題の考慮不足だと私は考えています。




口腔内での確定診断として、破折線を確認する必要があります。この症例では、露出根からポケット内への根面を染色剤で染め出して斜め45度からマイクロス コープで観察した結果、根面にわずかに染まった破折線を発見しました。すなわち、この症例では歯根破折が原因であると確定したのです。


キャリアのある歯科医師でも、う蝕のない生活歯の歯髄炎の場合、"原因がわからない"としてしまう先生が多いようです。もちろん、失活歯(歯内療法がなされた歯)でも、歯根破折であることが解らない先生もいます。これは、診断能力がないのです。

生活歯の歯牙破折は今まで何例も経験があり、私自身も下顎第二大臼歯を歯牙破折で失っています。ですから、私に関しては幸か不幸か、まず破折歯の例は見逃しません。
さらに、歯牙破折を上行性歯髄炎と勘違いする先生もいるようです(ちなみに、根尖近くに何ら病変もないのに上行性歯髄炎は生じません)。破折初期には、この先生と同じように知覚過敏症と勘違いしやすいので注意が必要です。私自身の歯牙破折の場合も初期は"知覚過敏症"だと勘違いしてしまいました。

たぶん、佐藤さんの例では近心にくさび状に骨欠損が既に存在することから、かなり前に破折は起きていて、破折に気づかず補綴物を装着してしまったと思われ ます。そして、装着後かなり時間が経ってから歯髄炎に移行したのだろうと思います。私の経験ですが、破折でもかなり時間が経ってから本格的歯髄炎に移行す ることも多いようです。この佐藤英子さんも、以前に数回当該部位に軽い"うずき"や"違和感"、"浸みる感じ"を感じたことがあるということでした。まず 間違いなく、破折は補綴物装着前に起きていたことが解ります。


その後佐藤さんにはお会いしていませんが、R女史から聞くところでは新たに補綴物が装着されたとのこと。破折歯に補綴物を装着された?? 驚きました。全く困ったものです(>_<)ゞ


このケースは、反面教師です。我々も行ってしまう可能性がある過ちを行った例です。人ごとではなく、良い臨床的示唆を与えてくれました。しかし、患者さんはお気の毒です。


そういえば、この先生は我が医院で歯周病の治療を受けた医療コンサルタントX氏(守秘義務を守らない事で有名なコンサルタント:この歯科医院の内部事情も平気で話していました)のインプラントも以前埋入しています。

X氏の場合は、歯周病の全顎的治療が 完了していないまま、すなわち深いポケットが残存(6mm以上有り)したままインプラントが埋入されていました。

信じられないことですが、この先生は患者さん の口腔内をチェックせずに埋入しているのでしょうか?もしくは知っていながら平気なのかも知れません。歯周病治療が完了しないでインプラント埋入をしてし まう先生が日本では多くいるようです。 

この先生は審美補綴で名前を売っている先生ですが、実情はこの程度です。

保存治療を十分にしないで、審美補綴もインプラントもあったものではあ りません。皆さんに言いたいのは、これが歯科界の実情だということです。さらに、治療の基本を忘れると患者さんに大きな迷惑がかかるのです。

 

皆さんも、虫歯でない歯が痛んだら歯の破折を疑ってください。
それが予想できない先生は、診断能力が劣ると思って間違いないと思います。



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