«  2009年9月  » 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
2009年9月29日

今回は、上顎前突を矯正学的に改善して、全顎的に安全な方法論で補綴処置した症例をご覧頂きます。今回も、自分のことを棚に上げて言いたいことを書かせて頂きますが、ご容赦下さい。







◎症例のイントロ



「 米国人はルックスから、英国人は日本人と同じ? 」



 ところで、日本人は民族的に上顎前突が多いのでしょうか?欧米の雑誌に、日本人旅行客が眼鏡をかけ、出っ歯(上顎前突)で首からNikonのカメラをさ
げた風刺絵を、日本人がエコノミックアニマルと呼ばれた70~80年代によく見かけました。これは、日本人を揶揄していたのですが、欧米のヒト達から見る
と日本人にみられる上顎前突が非常に奇異に映ったのでしょう。



 米国の中流家庭なら、もし子供が歯並びが悪ければティーンのうちに矯正をすることはごく普通のことです。私的体験ですが、チェルノブイリの事件があった
80年代半ば、米国の中流家庭はヨーロッパの汚染を恐れて、夏のバカンスは遠いハワイに変更して長期滞在することが多かったようです。私の宿泊したホテル
のプールでも、米国人らしいティーンエージャーが沢山遊んでいましたが、皆歯に矯正治療のブラケットを付けていたことを思い出します。ホントにほとんどの
プールで遊ぶローティーンが矯正治療しているので、びっくりしました。



 審美的な部分に執拗に固執する傾向は、特に米国人に強いようで、これに比べると例えば英国人などとは対照的な気さえします。



 例えば、グラムロックで有名だったデヴィッド・ボウィは、80年代まで乱ぐい歯(前歯叢生)のままでした。クィーンのボーカリストのフレディー・マーキュリーは上顎前突で、それを治さないままこの世を去ってしまいました。また、女性憧れのエルメスのバッグ=バーキンで有名なジェーン・バーキン(フランス在住、実は英国出身)は、前歯が空いた正中離開のまま活躍しています。この3人のショービズ界のセレブリティーがこういった状態なのです。こんな事に象徴されるように、精神性では米国人より英国人の方が日本人に近いように思えるのです。







「 多少の歯列不正なら問題はなし、でも重症な場合は... 」



 私は、日常的に歯列不正を抱えた患者さんを沢山診ていますが、歯列不正が余りにも著しい場合以外は、それを「治しなさい」などと滅多なことでは言いませ
ん。多少の歯列不正なら、その方の欠点にならない場合がほとんどだからです。口腔衛生の観点からも、正しい磨き方を身につければ、虫歯や歯周病にならずに
すむのですから。ちょっとした歯並びの不正も他人から観て気づかないことも多いですし、むしろ時としてチャームポイントにさえなる事だってあるように思い
ます。



 今回は、そういったチャームポイントなどにはなりえない、ご本人も長い間、気になさっていた上顎前突の症例を矯正学的に改善し、全顎的に補綴治療を施した一症例をご覧頂きます。







・・・・・・・・・・・・・・・





◎症例



患者:鈴木美保(仮名)

性別:女性

年齢:50歳

主訴:右上奥歯の冠が脱落したので治して欲しい



 鈴木さんが、「右上奥歯の冠が脱落したので治して欲しい」と来院されました。初めは、脱落部だけを治して欲しいとのことでしたが、お話ししている中で、上顎前歯部の前突も気になっていたので、これを含めて全顎的治療をすることになりました。







スライド1




上顎臼歯部の冠が脱落しています。これらの支台歯の歯質も変色しています。



 そして何より上顎前歯が突出して、前歯では噛み合わせがありません。口腔内に装着している補綴物も不適合なモノばかりです。





スライド15




 鈴木さんは、前突のために唇を上手く閉じられません。ひどくこのことを気になさっていました。前突になる方の唇の周りにある口を閉じるための口輪筋は、
筋力が弱い傾向にあります。口輪筋の力に対して、口の中の舌の突出圧が強いときには、歯が唇側に傾斜するようになり、結果"前歯が前突"することになりま
す。どうやら、前突した状態で以前にセラモ・メタル・クラウン(瀬戸の歯)が装着されたようです。



 この症例では、通常の症例同様にまず、全顎的にスケーリング&ルート・プレーニングしてできる限り歯周病学的問題を解決しました。



 また、前歯の根尖には病巣が存在したため、歯内療法学的治療(歯根の治療)もしました。(その各々には、コア(金属支台築造)を装着する予定)



そして再評価後、前歯の矯正処置に取りかかりました。









◎技工ラボでの仕事



スライド2




 矯正で歯牙が理想的位置に移動した状態を模型上で想定して、その状態で歯牙が並び綺麗に上下顎で噛めるような状態のプロヴィジョナルレストレーション(以後PRと略す)とコアを作製しているところです。



1.前歯では根管の方向と歯軸とはほぼ一致するので、根管にようじを挿入して、歯牙の平行性などを考慮して、歯牙が理想的状態に移動した状態にセットアップしているところです。



2.1の状態で、各々の根管に適合するコアを作製した状態



3.1を咬合面方向から観たところ。各前歯の平行性がとれています。



4.PRを作製するためのワックスアップ(ロウで歯冠をカタチ作った状態)





スライド3




5.4を咬合面から見たところ。PRという仮の修復物でありながら、最終補綴物同様の解剖学的形態をワックスアップで再現しています。当院の担当技工士=青木啓高氏の丁寧な仕事には頭が下がります。



6.PR完成後の右側方面観



7.同、正面観



8.同 左側側方面観



*これら、PRは即時重合レジンという一種のプラスチックのような素材でできていますが、加圧釜などで高圧下で重合硬化させているので非常に硬く数ヶ月の使用にも充分耐える耐摩耗性があります。







「 レベルの高い技工士とチームを組むことは必須 」



 こういった臨床的接点の多い難しい仕事も、青木氏のような見識ある技工士には可能です。それは、歯科医師と同じ勉強を高いレベルで習得されているためです。私が説明することを難なくラボで実現してくれるので、当院の患者さんへも全く迷惑をかけることなく、素晴らしい治療が可能になります。



 臨床家は、技術・知識共に高い、信頼できる技工士と共に治療することは必須です。コストを下げる余り、価格競争ばかりしているような低級な技工所などを
使う医院では、精度ある信頼できる処置は不可能です。患者さんの多くがこのレベルの事情まで理解していないと思いますが....



*自費治療費の違いの根底には、先生の治療レベルや手間などの違いの他に、技工レベル(技工費)の大きな違いも関係していることは知っておいて下さい。(安いところと、高級な仕事をするところでは、技工料は3~4倍以上違います。)



 また、近いうちにブログに書きますが、良い治療を受けたい方が自費治療費の額の違いで、歯科医院を選択する(安い医院へ行く)ことは、全くナンセンスであることも知っておいて下さい。









◎矯正学的治療について:





 「 Interdisciplinary approach とは 」



 私は、矯正家ではありませんから、通常矯正治療はしません。ただし、このケースでは治療費の問題と時間的問題などを考慮して私が行うことにしました。た
だ、今後は極簡単な限局的矯正以外は自身では行う予定はありません。やはり、専門家に任せる方が問題を起こすリスクが低く、安全だと考えるからです。



 また、歯周病や補綴処置などに高いレベルの認識がない矯正家の先生とは、共に一人の患者の治療を進めることは難しいと思います。私の場合には、幸運にも
米国でTMDのマスターを取得し、帰国後に矯正医専門医として活躍されているある先生とはコラボが可能なので、その方に歯周病治療や補綴を含むケースで
は、矯正治療を依頼することにしています。



 専門医制度が充実した欧米では、一人の患者さんに関して、複数の専門医が分担して治療するような、いわゆる"interdisciplinary
approach"といわれる治療方法が試みられる事も珍しくはありません。そうした場合、各専門医同士の高いレベルでの学問的共通認識とコミュニケー
ションが円滑である必要があります。





 「 日本では専門医が育たない 」



 ところで、日本には米国でのいわゆる"Board"のようなハードルが高く、本物の権威ある専門医制度がありません。日本には、歯科に限っていえば、各
学会単位で専門医・指導医といったモノは存在しています。ただ、米国のように難しい取得試験がある制度ではなく、臨床家としての高いレベルを保証するモノ
ではありません。



 また、現状では高いレベルの本物の臨床教育を行っている研修機関も私が知る限りでは"無い"に等しいと思います。私自身、大学院に入って初めて解った事
ですが、授業すら行われていないのです。最高学府がこの状態ですから、日本には専門医を育てる環境はないと思います。ですから、専門医を目指し向学心のあ
る先生方は、まともな指導をしてくれる海外の大学院に留学するのです。



 この状況ですから、interdisciplinary approachも一部のグループや先生方を除いては日本では一般的ではありません。



 そういったことから、必然的に日本では一般開業医が多くの学問分野を高いレベルで身につける必要が出てきます。そして、ほぼ一人で難しい症例も治療しなければいかない状況が、一般的になってしまいます。





 「 誰にも良い医療機関が解らない現状 」



 欧米であれば、治療費は高価であっても、専門医に受診すれば概ね高度な治療を受けられる保証があります。しかし、日本では難しい症状や崩壊した口腔内を
もつ患者さんはどこに行ったら高いレベルの治療を受けられるのか解らないと思います。おそらく、開業医がお金を出して掲載する怪しい「全国名医辞典」や
ネットのいかがわしい宣伝などを参考にして探すことが多いことでしょう。その結局、不見識で無責任な自称"○○専門医"の治療を受けて、トンデモナイ状況
に陥ってしまうことも巷には多く散見されます*。また、専門医が育たない機関である大学付属病院でも、残念ながら高度な治療は保証されません。毎年、何人
ものそういった医療機関で良い治療を受けられなかった患者さんが当院にも訪れますから、これは本当の話です。



*こんな信頼性のない情報に翻弄されて、無駄に時間を費やすかわいそうな患者さんの話も有ります。





◎この症例で行った矯正治療の流れ:



 主なステップを解説します。



スライド4




前歯部には、金属製コアをセットして、さらにPRを装着し、ブラケットをPRに付けた状態で矯正治療を始めました。



1.ライトワイヤーで手始めに、歯牙を挺出させた。



1-2.矯正を始めた時点のオーバージェットとオーバーバイト(水平・垂直的噛み込みの距離)の状態に注目。前歯部では咬合していない(開口状態と同じ)



2.矯正用ワーヤーをベンディング(曲げて)して、4前歯を舌側に傾斜移動すると同時に、下顎方向へ挺出させるために工夫した。



2-2.オトガイ(あごの)方向から観た噛み合わせ像:下顎前歯と咬合するには、まだかなり距離がある。







スライド5




3.2より1ヶ月ほど



3-2.2-2より更に歯牙移動が認められ、上顎中切歯2本が下顎前歯とほぼコンタクトした。



4.この時点から、金属製ワイヤーを外し、パワーチェーン(矯正用のゴム)に交換して、単純な舌側移動のみを行った。



4-2.もう少し側切歯を舌側に移動させる必要があるため、PRのコンタクト部を削り、更に側切歯が移動できるようにした。





スライド6




5.ほぼ歯牙が理想的な状態にまで移動した。



5-2この程度まで移動できれば、補綴学的な範囲で充分上下顎前歯の咬合獲得が可能。



6.5の時点でPR同士を即時重合レジンで連結結合した。ここから、数ヶ月保定期間に入る。



6-2咬合は良い状態が得られた。











◎外科的処置:





Iizuka_Hisae025




手術で、歯肉を剥離した状態



 この外科手術の意図するところは、極めて専門的な事になるので、詳しい説明は割愛します。



 要するに、矯正学的に傾斜や挺出といった歯牙移動をした際には、歯根膜組織と共に、歯槽骨も局所的に吸収や添加されますが、移動後保定期間になってもその後に上手く生物学的で生理的な歯周組織の環境が整わない場合が多いため、外科的に修整します。



 今回は、前歯部の最終補綴物を連結するため、永久保定状態になりますが、上の手術をすることで、後戻りもかなり防げるようになります。



 補綴物が脱落した臼歯部分の歯質は縁下まで着色と共に一部軽い軟化状態を呈していたため、縁上に健全歯質がでるよう修整しました。この結果、右側臼歯~
犬歯は、歯冠長が長い状態を呈することなりました。見かけ上の欠点にはなりますが、健全歯質のみ保存できたため、後年歯根が腐るリスクは低くなります。





Iizuka_Hisae026




オペ後、緊密に縫合した時の状態



オペ後約半年、PRのまま数ヶ月保定した後、支台歯を再形成し印象しました。







◎最終補綴物:



スライド7




技工士による最終補綴が出来上がりました。



 鈴木さんの場合は、臼歯咬合面は笑っても目立たないため、セラモ・メタル・クラウンは、咬合面は金属で覆うタイプにしました(もちろん、陶材で覆うフルベイクタイプでも作れます)。また、臼歯には全部鋳造冠も装着しました。



 上顎前歯は5本の連結冠で1ユニットとし、臼歯部がダメになった際には、臼歯部に局部床義歯を装着できるよう、犬歯(上顎右側犬歯:13)には、維持装
置のレストがかかるように設計されています。同様に、臼歯も局部床義歯を意識したレストが掛かる設計を下顎右側臼歯(46,47)と下顎左側犬歯(33)
に施してあります。



 このように、ある程度の年齢になった患者さんには、比較的近い将来問題が起こることを仮定した設計も必須です。大幅にやり直しをしなければいけないよう
な設計は、患者さんには迷惑をかけることになります。安全で、問題が生じたときに対応が可能な設計を可能な範囲で補綴処置に施すことが必要です。







スライド8




矯正学的治療によって、上の写真のように上顎前歯の前突が改善されました。





スライド1009-2




噛み合わせを観ると、このように充分な前歯部での咬合が得られました。





スライド1009




術前と比べて、前歯部の状態のみならず、口腔内環境が改善された状態にもご注目頂きたいと思います。





スライド16




術前と術後です。



口元の完成で、鈴木さんもよろこんで頂けました。









・・・







*私のブログは、全て実際に私が治療した症例の資料を基に、私自身が全て書いたモノです。当院の診療姿勢やエッセンスとお考え下さい。(多くの医院HPのように業者提供の写真・資料や他人の症例の流用ではありません。)





◎当院では、他院ではイイ加減に行いがちな目に見えないレベルまで基本的治療を正確に行っています。精度ある正しい治療をご希望の方、歯でお困りの方は、麹町アベニューデンタルオフィスへご相談下さい。

2009年9月15日

「 危ないインプラント治療と医原性疾患 」





このブログトピックは、次のトピックと共に読んで頂きたいと思います。患者さんの多くは、ここに書かれたブログの意味するところがよくお解りにならないだ
ろうと思います。ただ私が言いたいのは、現在の一般的歯科治療は良くない方向に向かっているということです。我々歯科医師の側の都合(報酬が多い方向)
で、治療をしてゆき、不必要な方法で治療が進められてしまう事が多いのです。



また、不必要な事のみならず、リスクが高くなる方法(補綴方法など)で治療されてしまうことが実に多いのです。



患者さんに、"将来問題が生じずらい方法論"を採るような先生が誠に少ない事は、医療の本質を忘れてしまってるとしか考えられません。もちろん、この点は私自身反省すべきところですが、こうしたことを全く反省しない先生方が余りにも多いという現実を知って下さい。





例えば、何度もブログで言及されているダメになるリスクを増やすようなインプラント治療が良い例です。



その一例を以下に示します。



最近、お出で頂いた患者さんに下顎第二大臼歯にインプラントが

埋入・植立されていました。



matsunaga側方




黄色の矢印が、インプラントの上部構造(歯冠部)です。



最後臼歯に必要のない審美性を考えたのか?歯肉にめり込むように歯冠部が作られています。人工的に、歯肉溝のような部分が作られてしまいました。この中は、どうやって清掃するのでしょうか?



これでは、一度細菌達が進入したら大変なことになります。



しかし、細菌学や歯周病学など科学的な知識が皆無な患者さんは、「歯が元通りになった」と、むしろよろこんでいるケースがほとんどです。これは、知らないということが恐ろしい事だと認識できる典型的ケースですね。





panorama-matsunaga




これが、全顎のレントゲン像です。



下顎右側第二大臼歯相当部に埋入されています。次のブログトピックで私が述べたように、下顎第二大臼歯は欠損した状態にしても、上顎の第二大臼歯が(噛む
歯がないので)挺出しますが顎を動かせた際、下顎の歯と全く干渉(衝突)することはありません。→ 欠損したままで良いと思います。





panorama-matsunaga1




この歯以外は残存していますから、この歯が欠損しても、咀嚼能力は差ほど大きくは落ちないはずです。



インプラントを、このような部位に埋入すると非常に清掃が難しいのです。しかも、上に書いたような変な上部構造を作ってしまったために細菌がインプラント周囲に付着してインプラント周囲炎*を生じるリスクを更に高めてしまっているのです。



panorama-matsunaga1'




白線部が歯肉を現しています。



以上のことから、以下のようにお解り頂けると思います。



患者さんのことを全く考えていない不要で危ないモノを高い自費治療費を頂き埋入してしまったという驚くべき例です。



こういった、必要もなくむしろリスクの高い状態でインプラントを埋入してしまうような先生が非常に多いのです。そして、インプラント周囲炎によりダメになる可能性が極めて高いのです。



     ↓     ↓     ↓     ↓



これは、「歯科医師による医原性疾患を高いお金で患者さんが買ってしまった」ようなものです。



初めから、する必要のない治療をするような、こういったトンデモナイ先生方は、自分が治療した後がどうなってもかまわないと思っているのでしょう。たぶん、治療費が沢山頂ければよいと思っているのです。



これをお読みの患者さんは、是非正しい知識を持って良い医療機関に受診できるようになって下さい。


よい医療を受けるには、まずは良い歯科医師(歯科医療機関)の選択が重要です。これが全てかも知れません。

とにかく、治療費獲得しか考えていない不良歯科医に騙されないで下さい!


2009年9月14日

「 症例のイントロ 」

患者さんごとに、その方のためになる妥当な処置方針を考える事が、我々臨床医には必要です。同じ症例を観ても、いくつもの方法が存在します。



例えば、まともな臨床講習会では、ある症例を呈示されて、治療計画を立てるといったトレーニングをすることがあります。この時、先生方の見識の違いが如実
に現れるものです。この頃は、欠損歯があれば、もしくは歯周病に罹患した歯があれば、これを抜歯してインプラントを選択してしまうような先生が多いことに
驚かされます。



結局、現在のベーシックな学校教育が徹底していないことが原因とも思えます。オーソドックスな歯周病の処置を全くしたことがない先生ほど、または従来型
の義歯さえできない先生ほど安易に自費治療費が得られる方法論としてインプラント治療を第一選択にするようです。こういったことは多くの患者さんがご存じない大変に恐ろしいことなのです。
結果的に、そういった見識のない多くの歯科医師によって多くの患者さんにご迷惑をお掛けしています。


さて、ここでは残存する天然歯を従来から行われている歯根分割を応用して処置して、しかも将来を考え、対合歯として乱れた咬合平面を整えた一症例をご覧頂きます。余計な処置など全くせずに、妥当な処置の一つとしてこういった方法論を採ったわけです。



これをお読みの患者さんには、理解しずらいと思いますがお読み頂ければ幸いです。


「 症例 」

・患者:大野順子(仮名)
・年齢:70歳 女性

・主訴:歯周病の治療をして欲しい



Onodera_Jyunko002

初診時、正面観

臼歯部下顎右側第二大臼歯(47)の挺出*と共に、前歯中切歯(11,21)の挺出が顕著です。前歯部の咬合状態が悪く、中切歯がほとんど下顎前歯と噛んでいないのでこのような挺出をしたものと思います。
また、歯冠部及び歯頸部にかけての充填が沢山観られます。

*我々の口の中では、各々歯が噛み合(咬合)っています。適切に咬合していれば、ある位置に安定して植立していますが、どちらかが欠損してしまうと、噛む歯を求めて伸び出したように"挺出(ていしゅつ)"します。

挺出歯は上顎の最後臼歯(一番奥にある臼歯)の場合、下顎臼歯と干渉しないため問題になりませんが、今回のように下顎の最後臼歯が挺出した場合は、下顎が前方に運動する際に上顎の臼歯に干渉(衝突)を起こして問題になります。
今回は47と16が干渉していました。

スライド2
これは初診時の口腔内全体の状態です。

Onodera_Jyunko001''


青い部分:分岐部病変部
黄色の根:抜去される根
緑色の根:保存される根

○問題点:
・大臼歯(16,46)に分岐部病変があること(上図・青部分が分岐部病変部です)
・上下顎の大臼歯各々の予知性を考えて、大臼歯部にいかに補綴処置するか

写真上で青い部分は根分岐部病変部で骨が細菌に冒されて骨が吸収し、その空間が細菌の巣窟になっているところです。
この部分は洞窟状に歯肉縁下にあるため清掃できずに骨破壊が進行してしまうため問題になります。→この解決方法として、この部分を清掃できるような状態に修整する必要があります。
この症例のように歯根分割・抜去することで分岐部を清掃可能な部分へと変えることができます。

スライド3




全顎をスケーリング&ルートプレーニングして、再評価(再度診査する)をした際の口腔内写真です。
歯周病が右側上下顎大臼歯部(16,46)をのぞき、スケーリングとルートプレーニングで解決できました。分岐部は、外科処置で解決しました。これは、以下を参照してください。

スライド4

歯周病の治療により、腫脹した歯肉が退縮して歯の間に空隙を作った状態になると、この部分は写真のように歯間ブラシで適切に清掃する必要があります。


歯間ブラシは、この空隙の大きさによって、その空間に適当な摩擦が生まれるような大きさの適切なモノを選択し使用します。写真では、Lサイズの歯間ブラシを使用しています。

また、歯ブラシは基本的に手で丁寧に行ってもらうように指導しています。最近では、電動ブラシをお使いになっている方も多いようですが、ブラシの当て方が間違っている場合は、磨き残しが多く残ってしまった例をよく見かけます。

小学生に漢字を覚えさせるのに、まずパソコンを使わせる事はしないと思います。それと同じ理由で、磨き方を指導させて頂く患者さんに電動ブラシを勧めたりはしません。まずは手で、しっかり適切に磨けるようにトレーニングしてもらいます。

○このケースでは、歯頸~根面部での充填の既往が顕著であるため、今後さらに根面う蝕の発生が懸念され、根面う蝕(根面カリエス)への対策が必要となりました。具体的には、メンテナンス毎の高濃度フッ化物塗布と、日常での患者さんのフッ化物含有歯磨剤使用を指導しました。

「 外科処置 」

◎上顎右上第一大臼歯の歯周外科手術

スライド5

1.口蓋根を切る前の状態

2.歯冠部から口蓋根をタービンバーでカットした直後

3.抜去された口蓋根

4.口蓋根・抜去後の状態

スライド6

1.遠心頬側根の根本をタービンバーでカットした状態

2.抜去された遠心頬側根

3.遠心頬側根と口蓋根が抜去された後、歯槽骨を修整して歯肉弁で可能な限り抜いた後(穴)を覆い縫合した状態

4.同・側方面から観た状態

スライド7

1.手術後7日後に抜糸した際の咬合面観
分岐部病変(歯の根の間に歯周病による破壊が進んでいる)があるため、一番骨植のよい近心頬側根を残しました。さらに、歯冠部咬合面を小臼歯の形態にして保存し、概ねもう一本小臼歯が存在するような状況を作りました。(特に金属補綴などしていません)


2.手術後7日後に抜糸した際の右側側方面観
臼歯部での適切な咬合平面を得るため、手術後の46とその前の45の咬合面を削除・修整しています(写真2と4を比較のこと)

3.手術後5ヶ月の咬合面観
このようなアクロバットのような処置は、一般的には行わないと思いますが(私も行いません)、患者さんの努力と抜歯を希望しないというご希望もあって、このようなカタチに保存できました。実際に、問題なくお噛み頂いています。

4.手術後5ヶ月の右側側方面観
また、15と分割後の16に、コンタクトが回復しました。硬く固定せずに、ワイヤーを介して咬合時に自然動揺するように暫間固定を続けています。問題が生じなければ、このままお使い頂きます。

◎下顎右側第一大臼歯の歯周外科手術 

スライド8'

1.歯根切除する前の咬合面観

2.同・右側側方面観

3.右側下顎第一大臼歯(46)を分岐部に合わせてカットし状態

4.同・46の近心根を抜去し縫合した後の状態*

*歯根分割抜去(ヘミセクション)の場合は、いくら上手く分割抜去で来た場合でも、歯肉弁を剥離して一般の歯周外科に準じた方法で行います。すなわち、取り残しの歯石を除去したり、分岐部相当部から支台部にかけての形態修整などを行います。

スライド9'

1.手術時、縫合後、右側側方面観

2.術後3ヶ月、テンポラリークラウンを装着して歯肉成熟を待っているところ

3.最終補綴物を装着後・右側側方面観

4.同・右側舌側面観:近心根相当部は、ある程度空隙を狭めて、歯間ブラシでの清掃の際に、適当な摩擦を得るような状態に歯冠形態を付与しています。


下顎右側第一大臼歯(46)には、分岐部病変があり、このことで根分割抜去による保存方法を選択し、併せて第二大臼歯の挺出を是正するために咬合面を削除しました。これにより、第二大臼歯(47)と第一大臼歯遠心根、第二小臼歯(45)を連結補綴しました。

患者さんの口腔清掃状態が良好であるため、46の遠心根を保存しました。清掃状態が悪いのなら、46は一本まるまる抜歯して、45と47を支台としたブ
リッジにする方法か、もしくは分岐部に触れずに*(そのままで)歯冠形態を整えるだけの補綴をしても良かったかも知れません。

補綴の方法は、患者の清掃状態、年齢、希望、予算などにより決定されるものです。正に、ケース・バイ・ケースといえます。
*分岐部の処置には、チェアータイム、諸々の手間やそれ相応の治療費が派生します。清掃ができない患者さんの場合は、近い将来ダメになる可能性が非常に高いため、行っても無駄だと考えます。一般に、口腔清掃良好でない限りは、歯周外科は禁忌です。

Onodera_Jyunko001'

初診時の右側側方面観で図示すると、黄色の点線が現すような位置が自然な咬合平面(上下顎の歯牙が噛む点をつないだ仮想の平面)と考えます。

今回の上下顎臼歯部の処置で咬合平面の乱れを上のような位置に(上図・黄色の点線部を参照)修整し、将来上顎もしくは下顎に欠損補綴を装着することになっても適切な咬合関係を保てるように修整しました。

Onodera_Jyunko035

このように、最低限の歯周病学的かつ補綴学的に環境を改善することで、現実的にこの患者さんに関する妥当な対応ができたと思います。
現在、問題なく使用されているアクロバチックな分割歯牙16は、いつまで使用できるのか保証はありません。しかし、これを残したことで患者さんの希望がかない、なおかつこの歯牙を保存することで高い口腔清掃を維持する事が可能になりました。

また、現時点での状態は決してゴールではありません。問題が生じれば順次柔軟に対応してゆく必要があります。根面う蝕予防やう蝕の再充填を含めて口腔内を高いレベルで維持してゆきます。

スライド10

現在、多くの先生方が16、46を抜歯してインプラントを埋入するような計画を平気で立ててしまいます。こういったことに、疑問を感じないような風潮が一番危険なのです。

・・・・・

必要のないインプラントを不適切に埋入した症例も提示しています。このブログを理解して頂くためにも次のブログを参照してください。

2009年9月 9日

街を歩いていると、歯科医師である職業病か他人の歯が気になる事があります。よく前歯の色やカタチが不自然な方を見かけます。本人も気になさっている場合が多いようですが、多くの方がなかなか治せないでいるようです。



今回紹介する40歳台のこの患者さん(女性)は、お子さんも大きくなり余裕が出てきたので、前歯のカタチと色合いの不調和を主訴に同部位の治療を希望し来院されました。



スライド2




ご覧頂いたとおり、上顎・左右側中切歯(11,21)、上顎・左右側側切歯(12,22)、上顎・左側犬歯(23)、右側第一小臼歯(銀色の冠が被っている歯:14)が治療の対象となりました。



まず、前歯で一番目立ち、中心にある上顎・左右側中切歯(11,21)の二本の色とカタチが悪く治して欲しいと言うことでしたが、お話しするうちに、他の4本も直すこととなりました。



スライド1




臼歯部を中心に、保険適応の銀色のインレーで修復されています。これら充填物下には二次的う蝕も発見されましたが、まず今回は前歯部を中心にした審美障害部位を解決することになりました。



スライド3




右が来院時軽く表面をポリッシングした後の硬質レジン冠です。ここには画像記録がありませんが、初診時にはもっと硬質レジン前層冠に汚いステインが沈着していました。



硬質レジン前層冠というのは、金属冠の見えるところに歯質に似せた白いレジンという(一種のプラスチックのような)物質を盛って白く覆った冠のことです。



この冠は、表面が瀬戸物のセラモ・メタル・クラウンやキャスタブル・セラミック・クラウンに比べると比較的安価に治療できます。しかし、耐摩耗性が悪く、歯垢、色素沈着や変色がしやすく、決して自然観のある審美性を保持できる補綴物ではありません。



当院では、特にお若い患者さんの場合には硬質レジン前層冠での修復は、全くオススメしていません。その理由は、このケースを見て頂ければお解り頂けると思います。



再修復するにあたり、硬質レジン前層冠を除去しました(上図右写真)。



スライド4




歯内療法と併せて、歯周病の問題があったため、口腔内の全歯牙にスケーリングとルートプレーニング(徹底的歯石除去)を行いました(上図上左写真)。



そして、上顎前歯6本を対照に4ミリ以上のポケットを残した部分と生物学的幅系(以前の私のブログ参照)を侵した部位に、歯冠長伸展術など歯周外科手術で修正を施しました(縫合後の状態:上図上右写真)。



手術後6ヶ月ほど経過した最終印象前の状態です。正常な歯周組織の獲得が得られました(上図下左写真)。



スライド7




前医の支台形成(歯の削り方)や築造(土台)がいい加減であることが解ります。支台歯の築造(土台)が不適切なカタチのレジン*で作られていることも解ります。辺縁周囲に歯石やセメントのカスなどが堆積しています(上図左写真)。



*支台築造は、レジンで作る方がむしろ歯牙に負担無く良いケースも多いのですが、この場合は歯肉縁上に健全歯質を保存せず築造してあるため、適切な状況ではありませんでした。



支台築造は、歯肉に接するマージンから数ミリ健全歯質を保存して、その上に金属などで移行的に作られるべきモノです(上図右写真)。



術前の支台築造と私が行った築造を比較してください(上図参照・左右を比較)。



スライド7




もちろん、歯内療法も必要がある箇所はやり直しています(下のレントゲンが術後)。上のレントゲン写真のように、歯内療法をしないまま感染根管で放置されたところや、根管充填後、根尖病巣が残っている箇所を治しました(黒い影が消失か縮小しています)。



◎このように患者さんの見えない部分まで真面目に整えることが、予後の良い補綴には必須です。





スライド5




術前と完成後の状態を比較してください。



術前の中切歯は幅広の形態でした。この患者さんは面長の顔貌でしたから、前歯のカタチと顔のカタチとの不調和*がありましたが、完成後はこの点が改善されました。また、完成後のセラミック特有の自然観は十分に患者さんの主訴を解決しています。



*ヒトは、特に前歯のカタチと顔貌とは相似形である事が多く、調和を取るために、顔貌(のカタチ)を参考にすべきです。



スライド6




このように自然なカタチで修復を終えました。



歯周組織や外面的には解らない歯内療法的(歯の内部)健康まで得られました。



とかく、見かけの色やカタチだけを問題にすることが多いのですが、歯を取り巻くインフラまで健康を得る必要があります。こういった一面的でない治療価値を大切にして、審美性を獲得することが求められるのです。





◎当院では、このように見えない部分の治療を徹底して行います。



 このような正しい補綴処置をご希望の方は、是非ご相談ください。

« 2009年6月 | メイン | 2010年3月 »

Powered by
本サイトにて表現されるものすべての著作権は、当クリニックが保有もしくは管理しております。本サイトに接続した方は、著作権法で定める非営利目的で使用する場合に限り、当クリニックの著作権表示を付すことを条件に、これを複製することができます。
麹町アベニューデンタルオフィス 麹町アベニューデンタルオフィス 院長 戸村真一

麹町アベニューデンタルオフィス
院長 戸村真一

こんにちは、麹町アベニューデンタルオフィス院長 戸村 真一です。

街の歯科医院へ行くと感じる嫌な感覚を皆様が受けないような雰囲気にしました。 スカンジナビアン調に私自らがエントランスから室内の隅々に至るまでデザインし、 患者さんがリラックスできる清潔で清々しいセンス溢れる空間をご用意しました。

 巷の歯科治療の嫌な記憶を思い出すことのない快適な環境でお持ちしております。気持ちよく治療をお受け下さい。

日本の医療機関のホスピタリティーは低くセンスが感じられないのが現状です。 当院の室内環境は、私の診療哲学の現れです。 また、私のオフィスでは正しく丁寧に本当の歯科治療を致します。 正に、日本の酷い歯科医療のアンチテーゼを具現したのが私のオフィスです。